1. カレンダーベースでのプライマリーバランス(PB)黒字化目標を撤廃すること。その上で新たな財政規律置くと
すれば、「公共事業費等の投資的な経費をPB対象歳出から除いた経常的歳出」とすること。
2. 非社会保障費に係る「3年間で1000億円増以内」とする、いわゆる歳出キャップを外すと共に、公共事業にお
ける社会的割引率を長期金利と適切に連動させること。
3. 経常的な歳出は当初予算に計上し、当初予算にはインフレ率も加味すること。
4. 国債60年償還ルールの撤廃により、無用の現金償還を止め、歳出から債務償還費を除外すること。
5. 外国為替資金特別会計の収益を、投資的財源として積極的に活用すること。
〈理由〉
日本独特の財源ルールが我が国の財政運営を歪めている。日本だけが「PB黒字化」を財政運営の目標とし、日本だけが国債60年償還ルールという減債制度に縛られてきた。この結果、需要不足が常態化し、名目GDPが膨らまず、一人当りGDPも先進7カ国で最低、名目GDPはドイツに抜かれ4位に落ちてしまった。国際競争力も35位に落ち込み、「衰退途上国」の道に足を踏み入れ始めている。
この際、我が国独自の財政ルールを見直し、国際標準に合わせる必要がある。財務省は「健全な財政の確保」を任務としているが、我々政治家は、責任ある財政運営の下、国民の幸福と国家の発展を目指すべきであり、国民負担率が上昇し個人消費が上向かない中で、これまでの財政政策を継続していくならば、需要不足が継続し、経済成長を阻害し「衰退国家」への道を歩んでしまう。
政府の投資不足から、ワクチン等の創薬や半導体、自動運転、宇宙、DX等の分野で国際的な遅れが生じており、大学ランキングでも低位に甘んじ、少子化も進行している。国土強靭化についても、大災害から国民の命を守る事前防災や、生産性向上に資するインフラ整備について、新たな国土強靭化中期計画を早急に策定し、充分な予算を措置することが、結果としてトータルコストを下げ、財政健全化にも資するのである。
国内の需要不足から企業は国内投資を控えてきた。企業はまだ貯蓄超過の状態にあり、民間投資は圧倒的に不足している。この際、民間投資が活発になるまでは、政府の積極的な財政運営により資金需要を拡大し、総供給を上回る国内需要を創出し(高圧経済)その構造を持続すべきである。
高圧経済は増産投資や省力化投資を誘発し、買い叩きを防ぎ、生産性の高い分野への労働移動を促し、賃上げと経済成長を成し遂げる経済構造である。
名目経済成長率が国債金利を上回ることで(ドーマー条件)債務比率は発散しないが、そのためにはデフレからの完全脱却が最優先であり、経済再生と財政健全化の二兎を追うのではなく、経済成長に注力すべきである。財政健全化を叫んで財政を抑えると経済成長を阻害し、かえって財政再建が遅れてしまう。
よってPB黒字化のカレンダーベースでの目標は撤廃し、その上で、仮に新たな財政規律を置くならば、高圧経済を維持するために建設国債等の投資的歳出をPB対象歳出から除いた経常的歳出とすべきである。
政府の財政については、統合政府のバランスシートで評価することが国際標準であり、債務や利払いについても、資産も考慮した純債務で評価し、利払いについても受取り利息や経済成長による税収増も勘案した分析を行うべきである。
総債務をことさらに強調することは、日本の財政状況に対する誤った認識を国民に与え、官僚らが日本国債の信用失墜に繋がる発言を繰り返すことは、過度な円安を招くことから厳に慎むべきである。
統合政府のバランスシートで見ると、我が国の財政は他国と比較して健全であり、日本国債のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)はドイツに次いで信用がある。この事実が忖度のないマーケットの評価である。
日本に財政問題は存在しない。税収の範囲内でしか行政を行わないとすれば、むしろ財政を悪化させ、国民を貧困化し国家を衰退させる。一定のPB赤字を許容し、経済成長重視の積極的な財政運営を行ってこそ、岸田政権が目指すデフレからの脱却を可能とし、国民を窮乏化から救い、財政健全化にも資するのである。